カラスと人の懸け橋に!20年以上観察を続ける中村眞樹子さんが語ったカラスの魅力

同じ街に住み、毎日見かけていながらも、意外と知らない隣人であるカラスという野鳥。

人間との距離が近いために厄介者として語られる事も多いカラスですが、注目してみればくりっとした瞳に愛嬌のある仕草など、いくつもの魅力を備えています。

今回はそんなカラス達を長年観察してきたNPO法人札幌カラス研究会の中村眞樹子さんにお話を伺いました。

Profile: 中村眞樹子
NPO法人札幌カラス研究会の代表を務める。子供の頃から生き物が好きで野鳥観察歴は20年以上。特に身近な野鳥であるカラスが好きで観察と研究を続けている。行政との協力も行っており、カラスと人間がより良い関係を築けるよう日々尽力している。

長年カラスたちを見つめ続けて。始まりはひとつの大きな巣。

私はずっと札幌産まれ札幌育ちで、野鳥の世界に入ったのは20年ちょっと前です。
生き物全般が子供の頃から好きだったんですけど、本格的にバードウォッチングを始めたのと同時にカラスの世界にも入りました。

― 特別にカラスを研究し始めたきっかけはなんでしょう?

カラスは子供の頃から普通に居ましたし、もともと好きでしたよ。

本格的なきっかけは、バードウォッチングを始めてから見つけた大きなカラスの巣でした。
「これ来年はどうなるんだろうな」って思いながら見ているうちに、カラス達が可愛く面白く思えてきて。そんなある日、巣が無くなってしまったんです。台風があったわけでもないのに突然にです。

どうして無くなったのかどうしても気になったので役所に聞いてみました。

― え、役所にですか?

はい。だってあんなに大きな巣が急に無くなったのには何か理由があるはずなので。
そうしたら聞いてみたら「カラスは危ないから取りました」って言われて。

私は「何が危ないんだろう?」と素朴な疑問を感じました。その疑問の答えを知りたくて観察をしているうちに 段々とカラスの観察にのめり込んでいきました。
最初は個人で活動していましたが、 2006年に任意団体のカラス研究会作って、2012年には友人の勧めでNPO法人化しました。

写真提供:中村眞樹子

― 活動していく中で疑問の答えは見つかりましたか?

色々と話を聞いてるうちに、カラスの問題というよりは人間が原因となっている問題が多いとわかりました。例えばごみの問題とか、まずはきちんと片付けない人間の問題だよなぁと。

一方的にカラスが悪者にされてておかしいな、野生動物に習性を変えろって言ってもなぁって(笑)

― 観察は一人でされているんですか?

そうですね、ちゃんと調査として行っているのは私だけです。主に羽数を数えたり、写真やビデオの撮影が活動内容です。

まあ写真はね、可愛いカラスを撮りたいっていう私の趣味もあるんだけどね。

― 観察のために大変早起きだという話を聞いたのですが…。

はい。寝るのも早いですよ(笑)

だいたい夕方6時くらい、早い日だったら5時前には布団に入っちゃいます。たまには寝坊もしますけど、いつも2時半とか2時過ぎくらいには起きますね。

そうして夜が明ける頃に家を出ます。夏だと日の出が早いから5時くらい、冬は6時過ぎくらいですね。

まぁ、寝坊する事もありますけどね。
どんなに寝不足でも起きちゃうのですよね……。カラスと一緒の行動時間かな。

自慢げだったり真面目だったり。仕草がかわいいカラスたち。

写真提供:中村眞樹子

― 中村さんにとってカラスのイチオシポイントはどこですか?

それこそあり過ぎるよね。イチオシはなんだろうなぁ。

やっぱり遊びっぽい行動をしているときかな。私に向かって咥えたものを自慢気に見せびらかすような事をしたりね。「あげないよー」みたいなね。そういう仕草が可愛い。

ハシブトガラスがそういう仕草を結構やってくれるんだよね。それにブトは目がくりくりしていて可愛いの。

― 街に居るカラスは主に2種類で、ハシブトガラスとハシボソガラスが居るんですよね。ハシボソガラスの方は大人しいんですか?

ブトに比べてボソはすごく生真面目なのね。どんな時も真面目な顔で餌を探して子育てをして縄張りを守って。
ブトと同じでお茶目な事もしますけど、その時も何故か顔つきだけは真面目なんです(笑)

でもボソはボソで可愛いんだよね。こう寒いから羽毛膨らませてもふもふになってたりして。

凍ったうどんを加えるハシブトガラス。 写真提供:中村眞樹子

― あ、このカラスは何か咥えてますね。

これ、うどんなんだよね(笑)
どこかから持ってきた凍ったうどんを、私の目の前でこうやって見せてたのね。
こういう事をするのがすごい可愛いの。

他には鏡に映った自分の姿を見て、つついたり何度も蹴り入れたり、威嚇してるのも面白い。あとはやっぱり雪が付いてる姿が好きなのね。顔とかくちばしに雪つけてる姿。

見てて楽しいんだよねぇ。色々な遊びをするのは高度な脳を持ってる証拠なんですよ。

雪がくっついたハシブトガラス。 写真提供:中村眞樹子

― カラスとの忘れられない思い出はありますか?

いっぱいあります。
中でもやっぱりそうだなぁ、ニート君てカラスが居て、あの子が一番色んな姿を見せてくれましたね。ニート君が一番です。

― どんなカラスだったんですか?

巣立ちもなかなか上手くいかなくて、結局7年間も独り立ちもせずに親元に居たからニート君て呼んでたんですけど、これが可愛かったんだよねー。
あと、周りの同じ年のカラス達にいつもいじめられていたので、いじめっられっ子とも呼んでいたかな。

脚を怪我したりちゃんと飛べなかったり、見守っている間にいろいろなハプニングがありました。

一度親の縄張りを離れても、ふらっと戻ってきちゃったりさ。親も親で特に追い出すそぶりもないし「あの子またいるよ」みたいな感じで受け入れていたのが面白かったですね。

― カラスが大好きな中村さんは自身のコーディネートも黒ベース!他にも様々なカラスグッズを数多く収集しており、なんとパソコンのマウスカーソルもカラスです。

ドイツ・NICI社のカラスキーホルダー。

カラスのマウスカーソル。

カラスという野鳥とうまく付き合うには。

― 私、カラスがちょっと苦手だったんですけど中村さんの出版した『なんでそうなの 札幌のカラス』を読ませて頂いて、繁殖期以外は気にしなくても良いんだってわかりました。

そうそう。繁殖期を過ぎたらカラスの方も人間の事を気にしなくなるので怖がらなくて大丈夫です。

たまに早いのも居ますが、繁殖期はだいたい4月から7月中旬くらいまでです。そうはいってもその期間ずっと襲われるのかと言うとそんな事はありません。

雛の巣立ちが近くなる5月下旬から6月いっぱいまでが要注意期間で、親ガラスも神経質になりますね。ちょっとした人間の行動が気になって近寄ったて来たり、低空飛行をされたりなんて事が起こるのがこの時期です。

役所に苦情が増えるのもその短い期間がほとんどで、8月になる頃には苦情はかなり減ります。
カラスの習性は毎年同じなので、少し待てば勝手に静かになるものなんですけど、人間の側が毎年それを忘れて過剰に反応してしまうんですよね。

― 繁殖期でも威嚇されないように人間側で出来ることはありますか?

身構えてきょろきょろすると余計に刺激しちゃうので、無視するのが一番です。

こちらが意識するとカラスも意識しちゃうから良くないんですよね。
あとは威嚇される場所がわかっているなら、繁殖期の間だけはなるべくその場所を避ける。動物の習性は変えられませんが、私たちの行動は変えられますから。

あと簡単なのは日傘をさしちゃえば安心です。そうすれば威嚇されても低空飛行されても気にならなくなりますから。
そういう理由で、実は雨の日はカラスの苦情が少なくなります。

あと一番効果があるのは「両腕をまっすぐに上げて動かさずにその場を通り過ぎるか戻る」という事ですね。

なぜ効果があるのかと言いますと、カラスは後ろから頭を蹴ろうと近寄ってきます。
でも人間の肩幅の方がカラスが翼を広げた大きさよりも狭い。そのためカラスが後頭部に近づこうすると、翼が腕に引っかかり怪我をするかもしれないので、腕の上を飛ぶしかなくなるのです。

その結果頭を蹴られる心配が無くなるのです。

― 本に書かれていた「高齢男性は襲われ易い」という話が衝撃的でした。これにはどんな理由があるんでしょう?

カラスに手を出す人間って残念な事に高齢男性が圧倒的に多いんですよね。
女の人はわざわざ立ち止まって枝を振り回したり、石投げつけたりはほとんどしないですからね。野鳥を傷つけるのは法律に違反するんですけど。

そうやって人間に攻撃されたカラスは異常に興奮してしまって、攻撃した人物以外の人間にも手当たり次第攻撃してしまいます。

― 先に手を出した人物はともかく、ご近所の人達にしたらとんだ災難ですね。

だから私もあんまり酷い人を見つけたら直接注意する事があります。そういう方は注意してもなかなか理解してもらえませんが……。

カラスだって本当は無駄な体力は使いたくないんですけどね。
低空飛行もキックも彼らにとっては命がけの行為なんです。本来はそんな事をしている暇があったら雛にどんどん食べ物を与えて、きちんと子育てがしたいはずです。

だから例えば一度威嚇しても何もしてこない人に対しては、ちゃんと学習して段々と威嚇も減っていきます。

大切なのは理解を深めてもらうこと。

写真提供:中村眞樹子

今後も私がやっていく事は変わりません。

私はまず役所の方々に理解してもらうのが大事だと思っていたので、そこにずっと働きかけてきました。
役所の対応は段々良くなってきていて、今では定期的な人事異動で担当者が変わってもきちんとした対応が引き継がれるくらい理解度が高くなっています。

市民に何か伝えていくのは役所の人ですからね。一番最初の目標にしていました。

― 確かに市内の公園にも最近はカラスについての看板が増えた気がします。対応が変わってきたんですね。

そうなんです。
昔は役所や管理会社にもちゃんとしたカラスの知識が無かったから、苦情のあったカラスの巣は全部撤去されていました。それだとまた別のカラスが巣を作るだけで効果は無いんですけど。

でも今は大人しいハシボソガラスの巣は取らないという方針に変わってきました。
威嚇するのは主にハシブトガラスなので、ボソに縄張りを守ってもらった方が人間にとっても安心だという認識が広がってきました。

写真提供:中村眞樹子

― 理解を広めるという意味では最近出版された本の反響はどうですか?書店でも大きく扱っているのをよく見かけます。

そうなんですよ、良い場所に置いてくれてますよね。

出版してから結構いろんなところで声かけられるようになりました。道端で観察している時やお店に入ったときに「もしかしてカラスの方ですか?本を読みました!」って。
他にも「カラスが怖くて嫌だったんだけど、本を読んだらなるほどと思って意識が変わりました」といった感想をメールや電話で頂くこともあって凄く嬉しいです。

私はこれからもずっと活動を継続していきます。
毎年来る繁殖期には同じことを話して回って、毎年みんなに思い出して理解してもらって、大事なのはその地道な積み重ねです。

取材を終えて

カラスが好きな気持ちを原動力に、人とカラスがより良い関係を築けるように尽力している中村さん。

野鳥であるカラスと向き合い、行政と向き合い、人と向き合う。

必要なことを地道に着実に積み重ねていくその姿勢からは、難しいことでも諦めずに前へと進む大切さが伝わってきます。

最後に中村さんが執筆した書籍をご紹介しましょう。
読めばカラスの事がばっちりわかる、楽しくって為になる2冊です。

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書き手
スキュー編集部

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