牧場を渡り歩く異色のバリスタ!特別なミルクで作る極上ラテに込めた信念とは
札幌市大通公園の近くに、一度飲んだら忘れられないラテを提供するコーヒースタンドがある。印象的なクマのロゴが目を引くそのお店の名前はBARISTART COFFEE。
今回はその店主であるバリスタの竹内雄基さんにお話を伺いました。
- Profile: 竹内雄基
- 北海道で唯一、希少なジャージーミルクを使ったこだわりのラテを提供するBARISTART COFFEEの店主。ラテアートの大会で多数受賞する腕前を持ちつつ、見た目だけではなく味も追求するために、美味しいミルクを求め道内の牧場へ直接足を運んでいる。
- BARISTART COFFEE
- アクセス:札幌市中央区南1条西4丁目8番地 フリーデンビル1F
見つめ直したバリスタとしての原点
― ここのラテを飲んで感動してから是非お話を伺いたいと思っていました。まずはお店を開業したきっかけはどのようなものだったのでしょう?
僕はずっとコーヒーショップでバリスタをやっていたんですが、最初はラテアートの技術を磨いていました。
そうしていくつかの大会でも優勝できるくらいになって日本では最高3位までいきました。
― すごいですね!
あと世界大会は2回行ったかな。
ただラテアートって技術なので、練習していけばどんどん上手くなるんですけど、そのためには牛乳を使って捨てて使って捨ててを繰り返すんです。
アートの部分は綺麗で美しくなっていくんですけど味はどうなのか…と。
バリスタとして見た目だけではなくしっかりとした味への追求を、コーヒー以外のものにも向けなければいけないと思いました。
そこで「誰のためにラテを作ってるのか?」って考えたら、やっぱり美味しく飲んでもらう為にやるもんだなって思って。
だったら牛乳から良いものを使おうと思い、個人的に牧場を回るようになったんですよ。
― お店を持つ前から個人的にですか?
はい。牛乳ってどうやって出来てるのかなって。
そして訪れた牧場で牛乳のおいしさを再確認したんです。今も実際に足を運んで、作り手の方がどういう風に牛乳を作っているのか感じることで、なんで自分はラテを作っているのかという想いを見つめ直しています。
牧場の方のこだわりを知ることで、より美味しいものを伝えられるのかなぁって。バリスタとして、北海道の良い牛乳とコーヒーを合わせたラテを提供出来る、そんなコーヒーショップをやりたいなって思ったんです。
僕のその気持ちを今の会社INS&COMPANY ltd.(アイエヌエスアンドカンパニー)がバックアップし、色んなスペシャリストが絡んで、このBARISTART COFFEEが誕生しました。
北海道を巡り、ラテに合う牛乳を求めるミルクハンター
こういうお店をやっていると酪農家の方から「うちの牛乳どうだ」って話もたまに来ます。毎年いろいろな牧場に行ってて、もうミルクハンターみたいな感じですね。
直接行って牛の育て方やミルクの性質、ラテに合うかどうかっていうのを見てきます。
殺菌方法や牛の品種によっても味は変わりますし、搾りたてに近いと泡が立たない牛乳もあります。試作を重ねやり方を見直したりと、牛乳だけでも色々な問題をクリアした牛乳のみを使ってます。 なので、ほとんど市場には出回らない牛乳が多いです。
そうして選んだ牛乳の質と味に合わせて、コーヒーのブレンドを作っています。
― ちなみに先ほど頂いた十勝のジャージーミルクはどんな豆を使ってるんでしょう?
十勝のジャージーはアラビカブレンドってやつで、ちょっと浅煎りの果実味が強いコーヒーです。これをこのジャージーに合わせるとすごく甘く感じるんです。
十勝はトウモロコシの産地なので、牛には牧草と一緒にトウモロコシを食べさせるんですよ。そうするとミルクがちょっと黄色っぽくなったり、甘みがすごく出たりするんです。
このミルクを作っているのは十勝の加藤牧場さん。ジャージー牛はサイズも小さくて乳量が取れないんですが、ここではホルスタインも飼ってしっかりと管理することで、ジャージー牛に手をかけられる環境を作っているんです。そういう牧場のミルクを使っています。
毎年行ってるんですがジャージー牛、目がくりっとして可愛いですよ。人懐っこいし。
今は十勝のほかには2つのミルクを使っていて、函館のホルスタインと美瑛のジャージーがあります。
函館は低温殺菌では珍しくパック売りしている酪農公社のミルクです。これはもう安定して使えるホルスタイン牛ですね。
美瑛のジャージーは2016年に取扱が決まったところです。
あそこはもう完全に放牧しているジャージー牛で、ノンホモが特徴の牛乳です。
均質化(ホモジナイズ)をかけていない牛乳なので、上澄みにクリームがたまるくらい搾りたての状態に近いものです。一応中温殺菌なんですけど、すごい濃厚な味です。
― 美瑛ジャージーのラテを初めて飲んだときは衝撃的な美味しさでした。一口飲むたびに「美味しい…なんだこれすごい」と感じて。
じわじわミルクの味みたいなね。こういう濃い牛乳はビターなブレンドを合わせるとミルクチョコっぽくなるんですよ。
道内いろいろ回っていますが、道東のミルクもかなり美味しいです。
道東は海からの潮風が吹きかかりミネラルの豊富な草が育つんですよ。毎朝海風が吹いて、霧がかかって、それが牧草に染み込むんです。そんなミネラル豊富な草を1年中食べられる牛から出るミルクはとてつもなく甘く感じます。
夏にはその道東のミルクも店で出していたんですよ。明郷の伊藤牧場ってところなんですけど。そのミルクは泡立たなくてホットでは使えなかったんですが、冷たい状態のミルクがものすごい美味しくて。だから夏の期間だけアイスカフェラテとして出してたんですけど凄い人気でした。
― あぁ、飲んでみたかった…。
また来年も入荷するので是非。
あとはそうですね、今はジャージーとホルスタインの2種類ですけど、もしかすると新しい品種の牛のミルクも手に入るかもしれません。
そうしたら3品種のミルクを飲み比べられる夢のようなコーヒースタンドになります。ミルクスタンドかな?(笑)
いや、コーヒー以外の選択肢をバリスタが増やしていく。それがバリスタートコーヒーの特徴です。
北海道にはこういった質の高い、ブランド価値のある牛乳を作っている牧場がいくつもあります。うちはそんな牧場の牛乳を使って、バリスタがきちんとラテを作る。BARISTART COFFEEではそうやって地域に根ざした、ここでしか飲めない味を提供していきたいんです。
想定外から生まれた店舗デザインとBAC君誕生秘話
― お店の内装や小物のデザインがとてもおしゃれですよね。家っぽい感じがかわいい。
この場所、実は最初ただの壁だったんですよ。
しかも工事を始めるにあたって壁に穴あけたら階段が出てきて(笑)。でも半年かけてようやく見つけた場所だったので、設計士さんと相談したところ「じゃあ階段の斜めを利用して、おうち型にしよう」と今のデザインになりました。
― ロゴのキャラクターはなぜ熊なんでしょう?名前はあるんですか?
BARISTART COFFEEから文字をとってBAC君…かな。そんな決まってはいないですけど、2号店であるBARISTART CAFEのメニューにも「BAC君の気まぐれランチ」とかありますし。BAC君です。
なぜ熊かというと、作ったデザイナーが道民ではなく、北海道では熊が身近だっていう話が衝撃的だったらしくて。
― まあ札幌でも熊の注意報って身近ですよね。
住んでる僕らからすると「まあそりゃ居るよな〜」って感じですよね(笑)
熊なら北海道っぽくて見た目もキャッチーだし、グッズ展開も出来るからということで決まりました。牛じゃなくて熊にしたのは、牛だとコーヒーショップというより牧場みたいになっちゃって。そこはコーヒーショップなので!
― 今度雲海テラスなどで有名なトマムにも新店舗が出来るんですよね。
その為に今度住み込みでトマムに行ってきますよ。多分来年の4月くらいまでは帰ってこれないかなぁ。
そのお店はアパレルブランドのゴールドウィンとコラボしていて、店内にスキーのレンタルショップFISHERと、THE NORTH FACEの物販、うちのコーヒースタンドが併設します。
スキーは15分くらいゴンドラに乗る時間があるので、その時に美味しいラテがあると良いかなって。
トマムには世界中から人がいっぱい来るので、BARISTART COFFEEを発信していく意味でもリゾート地には出店したかったんですよね。
将来的には海外にも行きたいと思っているので。
いま目の前にいる人が、一番飲みたいラテを作る。
いろんなバリスタの形がありますけど、僕にとってバリスタの仕事で大切なのはお客さんが一番飲みたいものをちゃんと作れるかどうかです。
うちがこんな狭いお店でやっている理由は、今お客さんが何を飲みたいか、どんなコーヒーが好きなのか、どんなラテが好きなのか、そういう要望を直接聞くためです。
それを実現するためには、お店の雰囲気そのものを提供するカフェ形式よりも、小さなコーヒースタンドが合っていて。
要望に耳を傾けて「こういうミルクもある」「こういうコーヒーの合わせ方もある」ってその人が好きなものを提供できる。その技術があるのが本当のバリスタなんじゃないかって。
そしてうちの得意分野はミルクなので、それを活かしてその時その人に合ったお好みのラテを作りたいと考えています。
そんなお店なので、常連の方々はミルクにも詳しくなっていって「今日ジャージー」とか「今日ホルスタイン」とかって会話が飛び交うんですよ。
なかなかコーヒーショップでは聞かない会話なので、面白い店になったなぁと思っています。
― 私も今度「今日美瑛ジャージー」って注文しようと思います!
インタビュー番外編:竹内さんおすすめの美味しいラテの飲み方
まず2割ほど普通に飲みます。そして残りの8割をちょっと混ぜてから飲むのがお勧めです。
ミルクよりコーヒーの方が軽いので上澄みはコーヒーの味が濃い目なんです。そうしてコーヒーの味を楽しんでから、ミルクとしっかり混ぜると甘く美味しく飲めますよ。
もちろん混ぜるとラテアートは崩れてしまいますが、そこはお好みですね。そーっと飲めばラテアートも残せますから。
取材を終えて
北海道に根差した美味しさを追求している竹内さんのBARISTART COFFEE。おいしいラテを作るために自分の足で直接牧場を巡るその姿勢からは、ミルクの作り手への尊敬とバリスタとしての信念が垣間見えます。いちファンとしてこれからの展開がとても楽しみです。
札幌在住の方はもちろん、旅行で札幌に訪れる方も一度足を運んでみてはいかがでしょうか。
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