図鑑や辞典が大好き!個性的な本屋さんが語る、本と歩む人生。

北海道札幌市、路面電車が走る沿線近くに個性的な本屋があります。

図鑑や辞典を中心に据えたコンセプトのお店、「ものがたり広がる書店 laboratory haco」を営むのは山田真奈美さん。

小さな頃から親しんだ「町の本屋さん」を、自分なりのやり方で次の世代に残していきたい…。そんな想いを胸に今日もお店の灯りをともす、山田さんにお話を伺いました。

Profile: 山田真奈美
札幌市で辞典や図鑑を中心に揃えたセレクト系新刊書店「ものがたり広がる書店 laboratory haco」を営む。独自の選書に加えて喫茶も振る舞い、理想のお店をこつこつと作り上げている。
ものがたり広がる書店 laboratory haco
アクセス:北海道札幌市中央区南6条西14丁目1-12ハザワMS1階

原風景は階段途中の小さな本棚

― 本が好きになるきっかけなどはありましたか?

そうですね、本というよりは本がある場所が子供の頃から好きだったんです。そこではいろんなことが知れるっていうのが子供心に楽しかったんでしょうね。

物心ついた時からそうだったんですが、思い出せるのは幼稚園のことです。

私が通っていた幼稚園には、途中に本棚が置いてある階段があったんです。その階段にちょこんと座って本を読むのが好きな子どもだったんですよ。その思い出が心に残っているせいか、階段に本棚がある住宅には今でも強い憧れがあります(笑)

― わかります。私も本好きの端くれとして、そういう家に住みたいと常々思っています。

ですよね。そんな子どもだったので、近所の本屋にはよく通っていました。ちなみに昔はこのお店の周辺にも、子どもが行ける範囲で3、4件の本屋さんがあったんですよ。

小学生の頃だとお小遣いも少なかったので立ち読みに行くことも多くて。子どもなりに邪魔にならないよう、滞在時間の上限を決めて本屋さんをハシゴしていました。

それも1週間ごとに計画を立てて、今日はあそこで料理の本を読もう、明日はここで外国の本を読もう、とか(笑)

― すごく計画的な本屋通い…!ところでお伺いしていると子どもの頃から読む本のジャンルが幅広いですね。

ノンジャンルでしたね(笑)知識があるってこと自体が楽しくて、本屋のそこが楽しいから通っていたんです。行ったら何かはあるじゃないですか。

今思うと、早く大人になりたかったのかなとも思います。どこでも自由な所に行って、何か好きな仕事や、やりたい事を何でも自分で選べるようになりたいから、その為に知識を詰め込みたかったのかなって。

あ、だけど学校で先生から勧められた本は全然読まなかったです(笑)

― まあ本は好きなものを読みたいですよねぇ。

そうそうそう。今思うと結構ふざけた子どもだったなって。当時は真剣だったと思うんですけど、大人になっても役に立たなさそうなことをやたらめったらノートに書き写していました。

― わかります。私にも覚えがあります…動物の名前とか…。

そんな子どもだったので、大人になったら本に関わる仕事に就きたいっていう気持ちはずっとあったんですよね。職業が何っていうわけじゃなく、とにかく本に関わる仕事がしたいと思っていました。

どこから読んでも想像が広がる図鑑や辞典

― 山田さんのlaboratory hacoは図鑑や辞典を中心に揃えた選書が特徴的ですよね。なぜこういったコンセプトにしたのでしょうか?

子どもの頃から本は好きでしたが一冊の本をずっと読むことが苦手だったんですよね。だからどこからでも読める図鑑や辞典を読むようになったと思うんです。

パラパラっとめくって出てきたものを拾って読んでも面白いし、気になることを自分から探しに行っても楽しいし。小さい頃から家にあった料理の辞典や、暮らしの手帖なんかも好きでよく読んでいました。

他にはサバイバル図鑑的なものにも心惹かれたし、電話帳を読むのも好きだったなって。電話帳で本屋の場所探してましたよ(笑)

小さい頃だから漢字とかはまだ読めなかったはずなんですけどね。図鑑は他の本に比べて写真もよく入っていたりで、広げているだけで楽しかったんだと思います。

― 大人になって色々な本が読めるようになっても、図鑑好きは変わらなかったんですね。

実は私、今でも小説をあまり読まなくて(笑)
既に物語が出来ているもの、主人公がいて話が決まっているものが、昔からなんだか自由度が低いと感じてたんですよね。

だから図鑑みたいな本ばかり手に取っていました。だって図鑑や辞典の中にはあらゆる事が書かれてるので、そこからいくらでも自由に想像が出来ますから。

…図鑑や辞典てドラえもんのポケットみたいじゃないですか?

私の原点のひとつにドラえもんがあって。いろんな道具が出てくるあのポケットが、なんだか辞典や本棚に似てるなと思っているんです。ドラえもん好きも図鑑や辞典、本好きと繋がっているかもしれません。

思い入れで選ぶならこの三冊

思い入れが深い本を選ぶとしたら、やっぱりまずはこれかな、『へろへろ』。
この本はお客さんに教えて頂いた本で老人ホームの成り立ちにまつわるエッセイです。重くなりがちなテーマなのに重くならず、美談にし過ぎず書かれていて、笑えるんですよ。

手段を選ばない方々の「ここまでやるんだ!」という奮闘記で、読むと元気がもらえるんです。出来ないことってないかもしれないなって思える。

うちのお薦めは何かって聞かれたらいつもこれを出すんです。
本当はお店にこの本のコーナーを作りたい気持ちはあるんですけど、思い入れが強過ぎてうまく着手出来ずにいます。

あとは10歳のときに出会った星新一の『ボッコちゃん』も思い入れがありますね。

― あー!なるほどショートショートなら、図鑑と一緒で好きなところから読めるし、ひとつひとつは短いですね。

そうなんです。星新一でショートショートっていうのを知り「これ何!?」って読んでみたら、内容は結構ブラックユーモアが効いていて。

私あからさまな子供向けの本は好きじゃないひねくれた子供だったので、このブラックさ加減が良いというか、大人が面と向かって教えてくれない世の中の何かが書かれているというか。

お店開くときにこれは絶対に置こうと思っていました。私の思い入れで言ったら3冊目はクラフト・エヴィング商會の本ですね。

カフェテーブル横の閲覧棚に私物の本も置いてあるんですけど、これです。『じつは、わたくしこういうものです』。

実在しない職業、例えば月光密売人とか秒針音楽師といった職業を、さも実在するかのように紹介している本なんです。

私この中にあるシチュー当番が大好きで。寒い冬の間だけ開いている図書館で、シチューを振る舞うという当番で…。

なんかもうそのシチュエーションだけで本好きにはたまらないですね

もうそんな図書館に住みたいですよね!シチューが食べられる図書館で、しかもブランケット付き!

最高ですね!

あぁ、私クラフト・エヴィング商會の本に出てくるような場所を作りたいっていう気持ちもあるので、もしかしたらここもお店のスタートかもしれません。

ほかにクラフト・エヴィング商會の本だと25年も前の本ですが、装丁に一目惚れして買った『どこかにいってしまったものたち』なんかも私の宝物ですね。

出来ることから一歩ずつ。本と人をつなぐ理想の場所を。

実はこのお店は勢いで始まったんです。
本屋を始める計画は自分の中にもともとありましたが、この物件の巡り合わせのタイミングによってすごく準備不足の状態からのスタートを切ってしまったんです。

珈琲も振る舞える新刊書店という、ブックカフェ形式は最初から考えていました。だから珈琲屋さんで働いたことはあって、軽食も出せるようになりたかったので調理師免許も考えてはいたんですが、途中で始めざるを得ない状態になってしまったのでそれは叶わず(笑)

なので実は私、書店勤務の経験がないんですよ。経験する前にお店を始めてしまったので。

準備中でも飛び込んじゃう勇気と、チャンスをものにする握力がすごい…!

いやでも本当に手探りでお店を作ってきたので、やっぱり一度は新刊書店で働いてみたかったのは今でも思いますね…。

今って開店して何年目くらいなんですか?

お店自体は今年、2022年12月で8年目になります。ただ、今のお店の形になったのは3年ぐらい前ですね。取り扱う本の数も最初は本当に少なくて。少量でも直接取引をしてくれる出版社さんの本を中心に小さく始めて、時間をかけて増やしていきました。

例えばこちらの棚の○○語辞典というシリーズは大好きで絶対置きたいと思っていたので、その熱量のままお伺いの連絡をしたら直接電話が返ってきて。稀なケースだったのか無事に取引させて頂けることになりました。

いいなぁ…私も本好きとしてこういう本屋を開くのは憧れます。

でもうちの店はまだまだで。少しずつ理想と現実が繋がるように、仕入れはもちろん並べ方や紹介なんかも考えてはいるんです。ただ切りがないのでゆっくりゆっくり育てていく感じでやっています。

今はコロナ禍でなかなか難しいですが、以前に一度「本好きの人たちが語る会」みたいなイベントをやった事もありました。普段触れないような本に沢山出会えて、とても楽しかったのでああいうのもまたやりたいですねぇ。

それは是非参加したい…!本屋さんは場としても魅力的ですよね。

そう!実は本屋じゃなくて「図書室」を作ろうって計画もあるんです。奥に使っていない小部屋があって、そこを会員制の小さな図書室にしたいなぁって。フリーマーケットなんかで細々と資金を貯めているんですよ。

例えば子供が一人でも安心して来られるような場所にしたいんですよね。おうちや学校以外に気軽に来れる居場所、しかもそこには本との出会いがある…というような。

私にとって本は、人の生活を豊かにしたり面白くしたり、今よりもっといろんなことが出来るようになる為のものなんです。だから商売に関わらず本と出会える場所も作りたいんですよね、きっと

場所を作るって意味では本屋自体が増えるお手伝いとして、うちを窓口に仕入れをして、このお店の中に一箱だけのごく小規模な本屋をやりたい人を募集するっていうのもやってみたいなぁと思っています。

あ、あとは古本屋もやってみたいんですよ。古本の方は漫画専門が良いなぁなんて。絶版してしまう作品も数多くあるので、そういう本でも古本として取り扱えるようになれると良いなって。

聞いてるだけで私の方もわくわくしてきました…!ご近所の本好きとしてひとつずつお伺いしていきたいんですが、ちょっと情報量が多過ぎて…!

他にも自分の出版社を立ち上げてみたい憧れもあったりとか。

本好きの夢が全部乗せだ…!

本ってほんと色々な可能性を秘めてますよね。どこでもドアであり四次元ポケットでもあり。だから好きなんだなぁって。本って良いですよね。

そういうものを守るって言うのも変ですけど、うん、私もそういう火を絶やさないための一助になれたらな、という気持ちでお店をやっているところもあります。

私自身が本屋のない町には住めないですしね!

取材を終えて

今回の取材では記事にした部分以外でも、本にまつわる様々な話題でついつい盛り上がってしまいました。

出版不況や無書店地域の増加など、本屋さんを取り巻く環境は厳しい時代が続いています。
けれども、これは私の願望でもありますが、「本」という媒体に魅せられ、それを大切にしたいと思う人が居なくなることは無いように思います。

きっと何十年経っても、山田さんのようにバトンを受け取った誰かがその灯びを絶やさぬように本屋の看板を掲げている…。私は楽観的にそう信じています。

※書影画像は本の紹介を目的とし、版元ドットコム様より利用させて頂いています。

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