貫くのはものづくりを楽しむ姿勢!北国の木工職人が語る原点と野望

「木であればなんでもやるよ!」
森に囲まれた工房で朗らかにそう答える笑顔が印象的でした。
今回取材させて頂いたのは、札幌を中心にオーダーメイド家具やオリジナル雑貨を制作する木工職人の渡来拓郎さん。
ものづくりを生業として人生を歩む。その道を志すきっかけや木工の魅力、これからの展望についてお話を聞かせて頂きました。
Profile: 渡来拓郎
手作りの木工製品を中心に扱うcraft craftの代表。オーダーメイド家具やオリジナル雑貨、什器など多様なものづくりに対応する職人肌なチームを率いる。現在は札幌市を中心として活動しつつ、北海道北広島市輪厚に構えた工房で日々腕を磨いている。

代々受け継がれた”ものづくり”への情熱

取材した日はたまたま木工ではなく金属の加工をしていた渡来さん。

いらっしゃい!ここに来るまで迷わなかった?

― 事前にわかりづらいとは聞いていましたがやっぱりちょっと迷いました(笑)

だよね。看板もないからわかりづらいよね…。この工房の前の細い道は除雪車も入らないから、冬は朝に30分雪かきしてから仕事をしています。

― あぁ、雪国あるあるですね…。今日はよろしくお願いします! まずは木工を始めたきっかけからお伺いしても良いでしょうか。

うーん、もともと家族の影響で子供の頃からものづくりを間近に見てきたのが大きいかな。それで自分も自然にものづくりが好きになっていきました。

― ご家族もものづくり関係のお仕事なんですか?

いや、うちの父親はもともと保育士で。今はものづくり好きで高じて趣味としていろいろやってるって感じです。ほら、工房の前に置いてあるあのブランコも親父が作ったやつ。

― あれが!?趣味どころか普通に商品になりそうな完成度ですね。

でしょ。知り合いから注文が入って2台くらい納品したって言ってたかな。
そんな親父だけじゃなくて、爺ちゃんも趣味でずっと能面作ったりしてる人だったり、もう片方の祖父母も手芸とかやってて。
本職じゃなくても趣味とかでもずーっとものづくりをやってる人たちが繋がってきた血筋なんだよね。

そんな環境で育ったから、僕も幼稚園くらいの時には既にものづくりにはまってました。
親父が沢山りんご箱を貰ってきて、全部げんのう(金槌)で解体、板にしたそれらを使って秘密基地作ったりしてましたね。あとはコンパネ板に、釘を打ちまくってパチンコゲーム作ったりとか。そういう工作が大好きでしたね。

― 凄い幼少期ですね。私なんて秘密基地作ってもせいぜい段ボールでした。

あと大きな影響を受けたのは中学二年の時の実家の建て替えかな。
偶然縁があった著名なチームに設計をお願いすることができ、自力建設ということで棟梁一人と素人軍団みたいな感じで、その棟梁の指示に従いながら一緒に家を一から作っていったんだ。廃材を貰ってきて釘を抜いたり、プレーナーをかけたり、全国の大学生がひと夏のワークショップとして訪れて一緒に作業したり。
実際に組み立てるのには1年くらいかかりましたね。構想から数えると3年近くはかかってるかな。

ただコンセプトなのか良く分からないけど『完成しない家』だから実はまだ完成はしてないんですよね。

― 家族で家を丸ごと立てるなんて予想外のスケール感…!

うちの親父が人と同じことはしたくないって性分でしたから。僕もそれを見て育ってるから人と同じようなことは嫌だし、自分の個性を大切にしたいと思っています。

― 確かに一般的には自分たちで家を組み立てようとはなかなか思いません。

そういう環境で育ったからものづくりをちゃんと学びたくて、道立の帯広高等技術専門学院の造形デザインコースに入りました。
実家の経験から建築設計への憧れがあって、最初は「設計をやろう!」と思って入ったんです。でも実はその学校では木工で家具を作る職人を育てる色が強くて設計は少なかったんですよね(笑)

ただまあ自分の予想とは違ったけどものづくり自体は好きだったし、そこで勉強してるうちにどんどん木工にはまっていってしまって。

卒業後は旭川の家具屋さんで働いたりと、今に至るまでずっと木工一筋ですね。

欲しいものは自分の手で!ゼロから組み上げる木工の魅力

だいたいの機械が揃っているcraft craftの工房。おがくずの暖炉が暖かい。

制作の過程で一番好きなのはやっぱり組み立てる一歩手前!
切って加工が終わって、組み上げるって時が一番かな。そうして思い通りのものが出来たときは充実感があります。ばらばらだった素材をちょっとでもくっつけて完成品が見えてくると「来たぞ来たぞ!」ってテンションが上がります。

組み立てが何も問題なく綺麗に入った日は「よしきた!今日最高」みたいな。細かい喜びだと、自分の感覚で適当に切った素材が丁度良くはまるとそれだけで気持ちが上がりますね。
逆にそこで間違ってたら「どうしようなんで俺こんなことやっちゃったんだろう」みたいに落ち込むけど(笑)

― 制作においてのこだわり等はありますか?

やっぱり木を使ってるから木目がどういう風に見えるか、とかかな。
あとはお客さんには見えないところ!同じ職業じゃないとわからないようなお客さんには見えない部分。そういう部分も手を抜かないっていうのはこだわりの一つです。
でもそういうことわざわざお客さんには言いませんけどね。「見えないけど実は中も綺麗なんだぞ」っていう自己満足の部分なので(笑)

― 木工って自分で使う家具とかも作れるのが羨ましいなと思います。

でしょ。ぴったり自分が欲しいものを作れるよ。うちの家の家具は全部俺がつくったやつだからね。
ただしどうしても作り過ぎてモノが溢れてきちゃって。テーブル何個作ってるのみたいな(笑)これ家具屋さんあるあるかもしれない。

それでもいざとなったら解体して作り直したりも出来るしね。
自分で作ってると構造を理解しているから作り変えられるんだよね。例えば過去のお客さんとかも相談してくれれば、以前作った製品をどうすれば今欲しい形に出来るかっていう話は出来る。
お客さんからのリクエストは結構作るうえでの参考にもなってて、そこからオリジナル製品に発展することもあります。

やりたい事があり過ぎる!これから始まるcraft craftの挑戦

今、家を建ててみいたんだよね。
トレーラーハウスやタイニーハウスみたいに建築申請が必要ない家の究極版みたいなのを作りたいなって。最近知り合いの建築屋さんが自分用にそういう家を建ててるの見ていいなと思って。その家は暖房もばっちりだし水回りや電気もちゃんとしててさ。

このアトリエの前の土地を買ってそういうちっちゃい家たくさん置いてさ、色々な作家さんのちょっとした拠点に貸してみたりするのも面白いかなって。貸し工房としてうちの機材も提供できるし。

色んな作家さんを集めて、ジャンルごちゃ混ぜで何かやるかみたいなコトがしたいんだよねー。やるっていうか皆で遊ぼうの方がいいのかな。一緒に遊ぼうよって集まってさ。

それでそれに趣味のアウトドアも絡めたい!その辺の木にテント吊ったりハンモック付けたりとかさ。外でカフェみたいな事しても良いかもしれない。

― 夢盛り沢山ですね…!聞いてるこっちまでワクワクしてきます。

とりあえず工房を持つって目標を早々と達成しちゃったからさ。次の目標どうしようって考えていかないと頑張れないからね(笑)

あとはそろそろショップ兼ギャラリーを持ちたくて今いい物件ないか探してたりします。ここの隣の土地でも良いんだけど、ここ車無いと来れないでしょう?札幌市内のどこかに欲しいんだよね。あとは地元の帯広にもひとつ欲しい。
イベントとかでうちを知ってくれる人は大分増えたけど、よく「お店どこですか?」って聞かれる事が多くて。

― 気に入った作家さんの製品が買える場所は知りたくなる気持ちはわかります。

だよねー。でもうちの奥さんからはまずはWebショップだって言われてて。実は僕そっち方面が全然ダメでわからないですーってお手上げ状態なんだよね。

― Webショップなら今は無料で始められるサービスがいろいろありますよ。

そうらしいね。スタッフの中には多少わかるメンバーも居るけど、自分ではわからないからどうしようってなっててさ。そろそろネットを使った宣伝なんかもちゃんとしなきゃなぁと思ってるんだけど…。

― その辺は何か力になれることがあれば相談に乗れますよ。

そのつもりなのでそれは後でぜひ(笑)

― 了解です!それじゃあ一端締めましょうか。今日はワクワクするお話を聞かせて頂きありがとうございました。

取材を終えて

言葉の端々から伝わるものづくりへの情熱と、これからの展望を楽しそうに語る姿に取材をした私達もなんだか勇気をもらいました。

そしてお話を聞けば聞くほど木工が出来るのが羨ましくなりました。木工の汎用性の高さはすごい…!自分が欲しいものを自分で作ることが出来る。それはものづくりの喜びの原点のひとつなのでしょう。

いつか自分たちの家にぴったりな家具や木工製品が欲しくなった時は、まっさきに渡来さんところへ相談に行く予感がしています。

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書き手
スキュー編集部

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