知識をカタチに、あなたに届け!奥深いミュージアムグッズの世界

立体サナダTシャツ ¥3380(税込)

あなたはミュージアムグッズ、と聞いてどんなものを想像しますか?
パっと思い浮かぶのはポストカードやクリアファイルなどでしょうか。

しかしそれだけではないのです。

博物館が趣向を凝らした数々のグッズは、実は学術的な担保があった上で制作されており、ユーモラスに博物館の所蔵品や展覧会の魅力を伝えてくれます。
今日はそんなミュージアムグッズに魅せられ、独自に研究と収集を行っている大澤夏美さんからお話を伺いました。

Profile: 大澤夏美
札幌市立大学でデザインを学んだのち、北海道大学大学院へ進学。博物館経営論をベースとしてミュージアムグッズの研究に取り組む。卒業後はIT企業でSE、人事などの業務を経て、株式会社スペースタイムでWebやDTPのディレクションや取材、撮影業務などを経験。物で溢れる部屋から、ミュージアムグッズへの愛を発信すべく準備を進めている。

「それは独自性だよ」その一言が背中を押した。

もともと雑貨は好きでしたが、道内外の博物館へよく行くようになったのは大学に入ってからですね。 学芸員の資格を取るための課程で博物館学に触れる機会があって、ミュージアムグッズを意識したのはその時からです。

そして決め手は、大学院で修士論文の研究テーマに悩んでいたときに訪れました。

当時は別の研究にしようか悩んでいましたが教授に相談すると、「ミュージアムグッズ普通に面白いじゃん。 せっかくデザイン学部から来たんだし、それは独自性だよ」と思いがけず言ってもらえて。 自分が好きなものの研究が出来る! と前のめりに研究テーマを決めました。

そこからですね、本格的に研究と収集を始めたのは。

― 今日もすごく色々なミュージアムグッズを持ってきていただきました。 こちら全部お気に入りのグッズなんですか?

もちろん! でも今日はちゃんと厳選して持ってきましたよ。
私も初めは欲望のままに好きなものを買っていましたが、いざ研究を始める時に「それじゃダメだ」と思って、ちゃんと選ぶようになりました(笑)

今日持ってきたものは『その博物館・美術館のミュージアムグッズの中でキーになる』と私が考えたものたちです。 その博物館が独自に製作した「オリジナルグッズ」が中心となっています。 家にはもっと沢山あるんですけど全部は持ってこられないので。

― キーになるとは?

その博物館や美術館がどんなビジョンを持っているか、館長や学芸員さんが何を届けたいか、それを表すようなグッズを集めています。
例えばこの山種美術館のミュージアムグッズ。ここは日本画家のコレクションが充実した美術館なんですが、これを見てどう思います?

― 猫かわいい…。

ですよね! でも実はこれ、収蔵されている日本画の一部分を抜き出してグッズ化しているんです。

刺繍シール 各¥600(税抜) / ブローチピン「翠苔緑芝」¥950(税抜)

これらのミュージアムグッズがなぜキーになるかというと、先ほどの「かわいい」というリアクションが生まれるからだと思うんです。

美術館では著作権などの関係で、作品の画像を文房具などに印刷したグッズをよく見かけます。

しかし山種美術館は日本画自体のファンを底上げするために、また日本画を好きな人が増えるきっかけになるように、こういった買い手の心に響くグッズを作っているのではないかと考えています。

― 確かに、元の日本画がどんなものか気になります。

グッズの元になった日本画も非常に素晴らしいのでぜひ!

私は、このようにその博物館・美術館のビジョンが反映されているミュージアムグッズを積極的に集めるようにしています。
まあ、それ以外にも好きだと思ったものはつい買っちゃうんですけどね(笑)

ひと癖もふた癖もある超個性的なグッズたち!

― せっかくなので今日持ってきていただいたグッズをいくつか紹介していただきましょう。

良いんですか?いくらでも喋りますよ。

―ぜひ!

じゃあこのシュシュから。 …これ、何かわかりますか?

セミシュシュ ¥630(税込)

一見普通のデザインに見えますけど、実はこれセミの羽なんです。

アブラゼミの羽柄のシュシュで、大阪市立自然史博物館というすっごくコアなファンが多い博物館のグッズです。
自然史を扱っている博物館だから他にもいろいろあって、オオセグロカモメの卵の原寸大付箋とか、このひっつき虫の付箋とか持ってきました。

―ひっつき虫懐かしいですね!子供の頃によく遊びました。

ひっつき虫(オオオナモミ)のくっつくという特性を付箋の実用性として再現した、とても興味深いグッズです。

このミュージアムショップは非常にファンが多くて、グッズを制作している方の情熱が素晴らしいんですよね。

ひっつきむし付箋 ¥583(税込)

このようにちょっとマニアックな、万人受けはしないけど「自然の魅力を伝えたい」という想いを感じるグッズたちに、非常に魅力的を感じます。

―こっちのトランプも面白いですね。絵柄が生き物の系統別になっていて。

これは国立科学博物館に収蔵されている標本をあしらった『かはくトランプ』ですね。
1枚1枚に学名や分類が記載されていて見ているだけでも勉強になるんですが、標本のチョイスがたまりません。

スペードのエースが大腸菌だったり、標本のチョイスがたまりません。

かはくトランプ ー系統広場の生き物たちー ¥1512(税込)

―ジョーカーが人間になっているのも示唆に富みますね。

そう! 「全生物の中であなたがどのような位置にいるか考える」という意味が込められているそうです。 トランプについている解説書もすごく充実していて、オリジナルのゲームまであります。

―あとこれはあの有名な寄生虫博物館のでしょうか?

そうです、サナダムシTシャツです。プリントも立体的で触り心地もいいですし、 Tシャツを着るとちょうどお腹の位置にサナダムシのプリントがくるのもグッときます…!
他にも珍しくて貴重な寄生虫のグッズを販売していて、それらもすごく面白いですよ。

でもこのTシャツ、普通に着てたら旦那にやめてくれって言われたので今は自粛するようにしているんです…。

ただのお土産だと思われるのはもったいない! ミュージアムグッズの役割について

私が修士論文のために取材した博物館の中に、あえてポストカードしか作っていない館がありました。

しかしそれにはちゃんとした理由があって、 担当の方が「展示はばーっと見てしまうのに、ミュージアムショップはグッズを買う人で賑わっているという状態が、僕は違うと思うんだ」とおっしゃったんです。

「ミュージアムショップは展示の延長である」という言葉は、修士論文を書く際にあたった先行研究でも目にしており、私自身もそのとおりだと思いました。

ミュージアムグッズは展示されていた作品を、それを観てきた記憶と一緒に家に持ち帰れるものなんです。 そして、展示の魅力をグッズの力で伝えることには意味があるんだと思います。
そういう楽しみ方もあるっていうのを、皆さんに知って欲しいですね。

ただのお土産や雑貨だって思われているのはもったいないです!

今日はめちゃくちゃクオリティが高いグッズも持ってきました。
こちらJT生命誌研究館の「生きものヤジロベエ」シリーズのうちのひとつ、「細胞の大きさと個体の大きさ(細胞レベルのバランス)」です!
このシリーズは他にも様々なヤジロベエがあります。
全国の博物館に数あるペーパークラフトの中でも、ピカイチの一品ですね。

ペーパークラフト自体は比較的よく見かけるのですが、このミュージアムグッズからは伝えたいことを紙で、そして立体で表現するのにかけた情熱とパワーを感じます。

「生きものヤジロベエ」シリーズ
細胞の大きさと個体の大きさ(細胞レベルのバランス) ¥432(税込)

これは生き物の身体がどういうバランスで成り立っているかというのを振り子で表現しているんです。 細胞の大きさはそれぞれ微妙に違うのに、種としての個体の大きさはなぜ変わらないのか?とか、それは細胞の数で大きさを調整していて…など、そういう細胞の謎に迫ったグッズなんです。

ミュージアムグッズ界にも変化が訪れている

最近ミュージアムグッズ界隈も変わりつつあります。
だんだんモノが売れない時代になってきているので、そういう時代に対応するためには参考にできるものがまだまだ沢山あります。

例えば最近こういう事例がありました。

広島の尾道市立美術館が『招き猫亭コレクション 猫まみれ展』を開催している時に、SNSでとある写真が話題になりました。 どういうものかというと、美術館の近くに住んでいる黒猫が中に入ろうとするのを警備員さんが制止する。その一部始終を紹介した写真です。

「猫の展覧会なので入館を許可したいところですが」という優しいコメントも合わさって、ネット上でとても話題になりました。

―こちらのツイートですね!私も当時見かけた覚えがあります。

“尾道市立美術館のツイートより「本日も近所の黒猫と警備の方の攻防がありました。」”

そうそう!そしてその流れを受けた美術館のスタッフさんは、なんとこの黒猫と警備員さんの攻防戦をトートバッグにしてしまったんですよ!

しかも企画展示の期間中に間に合わせるという早業で。

―意思決定から実現までの速度が半端じゃないですね

ですね! テンポがすごい。
こんな出来事をグッズ化されたら、それは見に行きたくなるし欲しくなります。

“尾道市立美術館のツイートより「黒猫トートバッグ、ゴールデンウィークに間に合いました。」”

とまあこれは極端な事例ですが、このようにコトと絡めてグッズを展開していく方向性が良いんじゃないかと考えています。

例えば展示内容に合うイベントやワークショップを開いて、そこで使うアイテムをミュージアムショップでも売ってみるとか。モノ単体ではなく、体験を絡めて展開する。 今後そういったことに関わっていきたいと考えています。

―モノ消費からコト消費へ、ということでしょうか。

そうですね。 ミュージアムグッズはただの雑貨ではなく、学術的な担保も必要ですし、博物館の収益構造としてもただ儲ければ良いというわけにもいかないので難しいことも多いんですが。
良いものを作るためのコミュニケーションのお手伝いが出来ればいいなと思います。

それにオリジナルグッズの開発以外でも、例えば『 博物ふぇすてぃばる!』や『いきもにあ』などのイベントで活躍している作家さんのグッズを卸しているショップもあります。
そういったところの発想から学べるものは、まだまだ沢山あるはずです。

例えば、私は『妄想工作研究所』の乙幡啓子さんという工作家の方が作る雑貨がすごく好きで、ブログで力説していたらご本人からTwitterでコメントをいただいたりして…!
こういったユーモアのある切り口はもっと皆に知ってほしいし広まってほしいところです。

これから私に何が出来るかはまだ試行錯誤の最中ですが、とりあえず今年の目標は今まで集めたミュージアムグッズを整理・分類したデータベースをちゃんと作ることです。

今日紹介しきれなかった良いものがたくさんあるので、それらを紹介するベースに出来たらなと考えています。

あとはブログの更新をさぼらないことですね!(笑)

※記事で紹介したミュージアムグッズはすべて本人の私物になります。
※掲載したミュージアムグッズは現在品切れの可能性もございますので予めご了承ください。

取材を終えて

取材中の大澤さんからは、ミュージアムグッズを研究していた経験をもとに当時の成果を学術的視点で語ってくれた一方で、言葉の端々からはミュージアムグッズに対する情熱が垣間見えました。

実は記事で紹介できたミュージアムグッズは見せていただいたうちのほんの一部。 それぞれに違う背景を持ったグッズの話は、ひとつの記事にはとても収まりませんでした。

伝えたい知識の数だけ、感動の数だけ存在するかのような奥深いミュージアムグッズの世界。

次に私たちが博物館や美術館に行くときは、楽しみがひとつ増えているかもしれませんね。
とりあえず私個人としては猫だらけの尾道市立美術館に行ってみたくなりました…!

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書き手
スキュー編集部

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