紙にときめき印刷に思いを馳せる!紙雑貨作家minicoの紙談義

今回お話を聞かせていただくのは札幌で紙雑貨作家/グラフィックデザイナーとして活躍するminicoさんです。
紙と印刷好きが高じて印刷会社での勤務経験もある彼女から、その魅力や紙雑貨作りの裏側についてお話を伺いました。

Profile: minico
札幌市立大学デザイン学部を卒業後、紙や印刷に関わる仕事を求めて関東の印刷会社に勤務。その後、札幌にUターンしフリーランスの紙雑貨作家/グラフィックデザイナーとして活動中。

始まりは手紙から。

今日はよろしくお願いします。でも、私そんな大した話が出来るかどうか…。自分から喋るのは苦手なのでうまく質問してくれると嬉しいです。

― では早速。紙雑貨を作り始めたのはいつからですか?

大学1年生くらいの頃に宇田川一美さんの『手作り文房具』という本を手に取ったのがきっかけだったと思います。
本屋の手芸・雑貨コーナーを見て歩くのがもともと好きで、刺繍やビーズ、編み物など色々なジャンルの手作りに手を出してきたんです。紙雑貨の本もその流れで手に取りました。

初めは友人や恋人とやりとりする手紙を工夫したくて、本を見ながら封筒を作ったりしていました。年賀状なんかも他の人にないインパクトが欲しくて、全面に紙を貼ったりただの印刷だけでは終わらせないように試行錯誤したり(笑)

なので私の制作はごく私的なもので、発表したり商品にしたりとは考えていませんでした。例えば友達と旅行に行く時に”旅のしおり”を手作りしてみたりと、マイペースに楽しんでいました。

― 今のようにオリジナルの紙雑貨として発表するきっかけは何だったんでしょう?

大学生のときに友人と行ったグループ展です。
その頃はまだ自分にこれといった作品もなくて、グループ展に何を出そうか考えた結果、メッセージカードなどの紙雑貨に思い至りました。大学の授業でIllustratorやレーザーカッターなんかを使えるようになっていたのも背中を押してくれました。

そしてこのグループ展のために作った紙雑貨が、展示会場でもあった雑貨屋さんの目に留まって、そのお店で販売していただけることになったんです。

― 最初の作品が商品として認められるなんてすごいですね!

スタッフさんが「面白いじゃん!」と言ってくれて。
そんな風に言ってもらえたのは初めてで、戸惑いつつも嬉しかったのを覚えています。それからです。作ったものを商品として販売することを意識し始めたのは。

― 作品制作というより、商品開発なんですね。

人のために作る方が楽しいんです。ただ無目的に作品を作るのって少し苦手で。 「こういう風に使ってくれたら良いな」とか手に取った人の反応を考えるのがモチベーションになります。
このあいだ友人の結婚式で使うペーパーアイテムの仕事をしたんですが、あの子の雰囲気ならこの紙かな、印刷はこういう色で…と試行錯誤しているときが楽しいです。

集めても集めても果てしない紙の大海原

― minicoさんは紙のどこに魅力を感じていますか?

人それぞれだと思いますが私の場合はまずバリエーションに萌えます。

いっぱい並べたときに綺麗に並んでいるのを見るのが好きです。
私が紙にはまるきっかけともいえるNTラシャっていう紙があるんですけど、この紙は色のバリエーションがすごく豊富で100種類以上もあるんです。 「これだけあれば好きなの一枚くらいあるでしょう」ってくらい。それにこの紙は値段も安くて厚さの種類も豊富なので、何かを作るときには重宝しています。

学生のころ紙見本を買ったときは嬉しかったですね。見てるだけで幸せで夜寝る前に眺めたりもしてました。

札幌にあるサクマっていう紙屋さんに初めて行ったときは、NTラシャが全色あって感動しました。NTラシャ自体は画用紙みたいなので普通の文房具屋さんでも売ってるんですけど、ビビッドなものばかりで私が好きな渋めの色や繊細な色は専門店行かないと売ってないんですよね。

― 最近のお気に入りはありますか?

そうですね、最近はこれです。ゆるチップ。

― かわいい名前ですね。

ね! 私ボール紙みたいな厚めの紙も好きなんです。
この厚さなら名刺にもポストカードにも使えるし、これに活版印刷で印刷すると絶対かわいい!と思って、2017年の年賀状は「そら」という色の紙に蛍光赤のインキで印刷しました。活版印刷もおもちゃみたいな簡単な印刷機を持っていて、自分で印刷したんですよ。

こういった紙は再生紙として作られていることが多くて、このゆるチップもよくみるといろんな色の粒が混じっているんです。この色の粒が最高にかわいくて! きっとこの粒の割合も計算して作られているとても素敵な紙なんです。
私もよく使うんですが、質感のある紙にシンプルなデザインを印刷すると相乗効果を産んで可愛さが増しましになるのです。

あと再生紙といえば、ちょっと話が逸れますけど前にイオンかどこかで買ったトイレットペーパーが再生紙で作られていることに気づいたことがあって。
よくよく見たらそれにもピンクや黄色の粒が入っていて、手触りとか全然好みじゃないけど「ちょっと良いかもしれない」と思ったことがあります。

― まさかトイレットペーパーにときめいたことがあるとは思いませんでした。

「とっておこうかな」って少し迷いましたけど、やめておきました(笑) でもあの粒つぶ具合は可愛かったなぁ。

これは特色?あの紙?趣味としての印刷探偵

― 印刷物の中では本が一番好きとお聞きしました。

はい。自分で作っているような紙雑貨ももちろん好きなんですが一番は本ですね。
物質としての存在感も好きだし、内容に沿った加工が施されているのでそれを考えるのも凄く楽しいです。

私にとって本屋さんはお店であると同時に推理を楽しむ場所でもあって。
気になる本があると紙や印刷が気になってつい手にとってしまいます。質感から紙の種類を推理したり、印刷に使われているインクが何か考えたり、豪華な印刷仕様には予算が心配になったりもします(笑)

推理するのが楽しくて最近ブログに「印刷加工を想像分析」っていうシリーズを始めました。不定期なのでまだ2回しか書いてませんが、細々と続けたいと思っています。

あとは小説や漫画などを読んだ後に「見返しの紙がこれなのは物語のこれをイメージしてるのかな?」とか装丁家さんの意図を考えるのも好きです。装丁が意味を持って物語とぴったり重なったときは感動します。

― minicoさん一押しの装丁はありますか?

私が装丁として今までで一番テンション上がったのは三浦しをんさんの『舟を編む』の単行本ですね。あれは装丁と内容の掛け合わせが最高の一冊なので文庫よりもぜひ単行本で読んでほしい一冊です。

他には私のバイブル的な『デザインの引き出し』シリーズから13巻もおすすめです。

『デザインの引き出し』は毎回良い意味で振り切った私の大好きな雑誌です。その中でも特に13巻は、”本”という同じものを大量生産する前提の商品なのに、日焼けによって表紙の印刷が消えていくことを良しとする仕様で発売したのが衝撃的でした。購入した人の”手元で変化していく本”という仕掛けがとても好きな一冊です。

ちなみに私の持っている物は、背表紙の文字が完全に消えてしまっています。

まだまだ勉強の日々。

― 最後に今後の活動について聞かせてもらえればと思います。

まだフリーランスとして活動を始めたばかりで勉強の日々です。

知り合いのデザイン事務所で時々バイトさせてもらっているんですが、至らなさを実感することが多くて…。紙雑貨の引き出しを増やすためにも、デザインスキルの幅を広げたいと思っています。

さしあたっての方向性としては今までシンプルなものを中心に作ってきたんですが、可愛い装飾を施したものを作れるようになれたらなって。

― 十分かわいい商品を作っているように思えますが…。

いえ、まだまだです。可愛さにもいろいろ種類があるので、もっと他の種類にも対応出来るようになりたいんです。

今度その練習の意味も含めて、一度ZINE作りに挑戦してみようと考えています。前々から本を作ってみたいと思っていたのでこの機会にやってみようかと思って。

― それは楽しみですね! 完成したら見てみたいです。

とりあえず自分用に作るので発表するかはわかりませんが機会があればお見せします(笑)

 

取材を終えて

控えめながらも紙や印刷への熱い気持ちを語ってくれたminicoさん。私たちの生活に身近な紙ですが、その奥深さを少しだけ垣間見ることができました。フリーランスとして活動を始めたばかりの彼女の今後の活躍に注目です。
よりminicoさんの作品について知りたい方は彼女のWebサイト&商品を販売しているCreemaのページを是非ご覧ください。

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書き手
スキュー編集部

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